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小見山 輝 選

選者紹介 小見山 輝 (こみやま てる)

昭和5年岡山県生まれ。昭和26年、服部忠志に師事し、「龍」入会。昭和50年第12回龍賞受賞。平成7年より龍短歌会代表、並びに編集発行人。歌集に『春傷歌』『寄物六百歌』他、エッセイ集に『歌の話』がある。



天
1405 卒園児と揃いの花を胸に付け三十年の教職を退く

 おそらく幼稚園なのであろう。そこに勤めて三十年。今、卒園してゆく子供たちと同じリボンの花を胸につけて、その永い年月を祝われている。何よりも、作者の思いが素直に伝ってくる表現がいい。力むこともなく、悲しみや淋しさをも表に出さず、淡淡としている所に、一層の思いがこめられているようだ。
 そして、結句で美事にしめくくり、印象を深くしている。




地
601 年魚市潟に鮎とりしものの裔にしてしんしんとあり塩の記憶は

 年魚潟は古くからの歌枕である。現在の名古屋市熱田区から南区にかけての一帯の低地は昔海だった。父祖代々、そこで鮎をとって来たという。「塩の記憶」とはおそらく鮎と一体になっての感覚であろう。




人
614 水張りし休耕田に昼の月うつりゐて村に物音のなし

 休耕田にも水を張る。放置しておくと草にやられてしまうのでそうするのだ。
「村に物音のなし」という所で、米を作らぬことによって金を貰う日本の農民のかなしみを語る。




十首選
417 軒下に雪落つる音油色の鰯一匹春立つ前夜
473 お遍路の鈴が追いつき追い越せり書写の裏道九十九折道
535 ガレージの屋根をかすめて冬の陽がさしこむ部屋に水仙ひらく
542 松明を振りかざしつつ赤鬼が四股踏むあとに青鬼つづく
731 六年生、四年、一年姉弟のランドセル並ぶ冬日差す部屋
771 脳病み音信絶えぬ逢ひたりしかの日は華の時にてありき
789 幼子は蝉も花火も怖がりて君影草の花のやうです
819 ゴンドラの窓のかなたの播磨灘冬あたたかき陽にひかりいる
1129 中国へ赴任せし子の無事祈り書写に参りて写経しにけり
1217 ぼたん雪まぼろしの如く降る町に音を残して救急車消ゆ


馬場 あき子 選 佐佐木 幸綱 選 永田 和宏 選 栗木 京子 選
小畑 庸子 選 小見山 輝 選 上田 一成 選 水野 美子 選








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